八幡高原(やわたこうげん)の四季
所在地:広島県山県郡芸北町八幡
出典:桑原良敏著 西中国山地(1997年復刊版 発行1982年)
溪水社
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八幡高原は、西中国山地国定公園にあって、標高約800mの芸北町八幡地区一帯に広がっている。
西中国山地の中でも最も標高の高い盆地にあり、周囲は樹齢200年以上のブナ原生林におおわれた
臥龍山を始めとする1000mを越す山々に囲まれている。桑原良敏著「西中国山地」によれば、
年間降水量は2600mmを越え、中国地方で最も雨の多い地域である。年間平均気温は10度、最も高い
8月でも平均気温は23度である。現在まで観測された最高気温は34度、最低気温は−23.2度で、
気温的には青森や盛岡市の平均気温に等しい。雨が多いため盆地内の平坦地には湿地が多く
特異な景観をなしている。とある。
春は、臥龍山のブナの芽吹きから始まり、ノイバラ、タツナミソウ、ミヤマカタバミ、スミレ、イカリソウなどの
野草が高原の到るところで一斉に花開く。ヤマザクラやソメイヨシノの開花は5月初旬で北海道や東北の
開花時期とほぼ同じである。気候風土から広島の北海道と言ってもよいほどである。
夏は、牧野富太郎博士を喜ばせたカキツバタがあちらこちらの湿原で開花する。桑原良敏著
西中国山地に
よれば、カキツバタの群生地は、昭和12年にアヤメ池湿原として広島県天然記念物に指定されたが、
いつのまにか湿原はつぶされ、昭和50年に指定が解除されたそうである。現在、自生するカキツバタは、
散在する湿原にわずかに見られるだけである。
秋は、高原がススキでおおわれ、所々に紫のエゾリンドウ、赤い実をつけたカンボクが彩りをそえて美しい。
霜が降りた朝は、ありとあらゆる野草に、白い華が咲いたように氷の結晶が付着する。そして、陽が高く
なるとともに溶け出してダイヤモンドのようにキラキラと輝く。自然が創り出す造形美、時間の進行とともに
刻一刻と変化する自然の姿を眺めていると、自然のとてつもない大きさ、偉大さにねじ伏せられる。
八幡神社のモミジが色づく頃には秋祭りがある。
冬は1m以上の積雪があり、気温が零下になることは珍しくない。ぐんと冷え込んだ朝には、高原一帯の
樹木や臥龍山のブナ林が霧氷でキラキラと輝き、たとえようもなく美しい。
八幡には、今はほとんど見られなくなった茅葺き屋根の民家が幾つか残っている。
八幡は、原始の姿をとどめる豊かな自然、そして自然と上手に付き合い暮らす
人々とともに、日本の原風景が息づいている数少ない地である。